女性にしか開けない扉――秘密のランジェリーが教えてくれた愛のかたち

夜のランジェリーに誘われて――あの人の秘密を纏うとき

研修で仲良くなった由美子さんは、どこか年上の余裕と艶を纏った女性だった。
バイト終わりに「買い物に付き合って」と言われたのは、梅雨が明けた蒸し暑い夕暮れのこと。
向かった先は、街角のビルの2階にある、艶やかなランジェリーショップ。
ガラスの扉をくぐると、ふわりと甘い香りが漂い、そこだけがまるで大人の秘密の庭のようだった。

「私、ここ常連なの」
そう微笑む由美子さんは、店員と親しげに言葉を交わしながら、手にするのはどれも繊細で…大胆なものばかり。
私はただ、横で頷くしかできなかった。
あんな透ける素材を身につける自分を、想像すらできなかったから。

でも――
帰り道、由美子さんのマンションに寄ったとき、紙袋を手渡されて、耳元で囁かれた。

「今日のお礼に。…ねぇ、せっかくだし着てみてよ。私も一緒に着るから」

**

まるで夢のようだった。
彼女のベッドルームに通され、そっとドアを閉じた瞬間、心臓が高鳴る音が耳に響いた。
袋の中には、薄いレースのキャミソールと小さなTバック。
どこか少女のような可憐さと、淑やかな背徳が同居しているようなデザインだった。

鏡の前で着てみると、自分の姿が信じられなかった。
肌の曲線が浮かび、布よりも視線のほうが多くを包んでくれるような――そんな錯覚。

「……まあ、思ったとおり。可愛いわ」

振り返ると、そこには同じように透ける素材に身を包んだ由美子さんが立っていた。
薄いシフォンが肩から落ちかかり、瞳だけがまっすぐに私を見つめていた。

「自分をもっと、愛していいのよ」

そう言われた瞬間、私の中にあった恥じらいが、ふっと溶けていった。
彼女がそっと近づき、抱きしめたとき、香水の匂いと肌の熱が重なって、膝がふるえた。
鏡の中、ふたりの身体が絡み合うように映っていた。

**

ベッドの上、シーツの感触すら身体が覚えてしまうようだった。
唇が触れたとき、まるで空気が変わった。
言葉にならない吐息の交わり。
指先が、肩、胸、そして内腿へと滑っていくたびに、自分の身体が自分のものじゃないように感じた。

「好きよ」
「……どうして私なの?」

問いかけの答えは、熱い舌と、長いキスの中に溶けていった。
肌が触れるたび、呼吸が合うたび、心の奥が震えた。
何度も重なり、何度も高まり、私はその夜、自分の限界がどこにあるのかを知らされた。

**

夜が明ける頃、彼女の腕の中で静かに目を閉じた。
交わしたすべての感触が、言葉より深く刻まれていた。
それは恋とも、友情とも違う、名前のない繋がり。

「また、着てね。あなたには、こういうのが似合うから」

彼女はそう言って、眠たげな笑顔を浮かべた。
私はまだ、震える脚を抱えながら、昨夜の残り香のなかにいた。

忘れられない夜。
身体と心が、初めて一致した瞬間――
それをくれたのは、由美子さんという名の秘密だった。

第2部:心の揺らぎと背徳の蜜

翌朝、目を覚ましたとき、私はまだベッドの中にいた。
カーテンの隙間から差し込む光が、白いシーツに柔らかい影を落としている。
由美子さんは、キッチンでコーヒーを淹れていた。
サテンのガウンを羽織り、素肌にしっとりと馴染んでいる。

「おはよう。ちゃんと眠れた?」

振り返った彼女の声に、胸がぎゅっと締めつけられた。
あんなにも激しく求め合ったのに、私たちはまるで旧知の友人のように穏やかで――
けれど、私の内側は、昨夜から続く熱にまだ囚われていた。

**

研修が再開される月曜。
私は、何もなかったような顔で職場へ戻った。
けれど、ふとした瞬間に、身体の奥があの夜を思い出してしまう。
バスの振動、スカートの内側、ふと頬に流れる髪の毛の感触すら、由美子さんの指先に感じてしまう。

「私、どうかしてる……」

そう思っても、あの夜の感触は消えてくれない。
むしろ時間が経つほど、心の奥に蜜のように甘く、とろりと沈んでいく。

**

金曜の夜、由美子さんからメッセージが届いた。

「ねぇ、また来ない? この前の、別の色も買ったの。あなたに似合いそうなやつ。」

指先が、無意識に「うん」と打っていた。
怖かった。
だけど、それ以上に、もう一度あの快楽に包まれたかった。
あの、女であることを肯定されたような夜に――もう一度、還りたかった。

**

再び訪れた彼女の部屋。
今度は最初から、お互いわかっていた。
言葉はいらなかった。
彼女の指がそっと髪を撫で、肩を抱いた瞬間に、身体は自然に溶けていった。

私は、また新しいランジェリーを着せられた。
薄紫のレース。どこか憂いを帯びた色合いが、自分の中の「誰か」を呼び覚ましていく。

「ね、鏡の前に立ってみて」

その声に抗えなかった。
まるで催眠にかかったように、私は足を動かす。
鏡の中の自分は、あの日よりも艶を帯びていた。
まるで、女の悦びを知ってしまった身体のように。

由美子さんが後ろからそっと抱きしめ、レース越しに胸元へ唇を這わせた。
震える息が首筋にかかるたび、身体が溶けていくようだった。

「こうされるの、好き?」

「……うん」

たったひと言が、重たい鎖をほどいてしまう。
私の唇が、彼女の胸を吸い、その奥を探り、知らなかった官能が、また一つ目覚める。

**

その夜、私たちはひとつの身体のように、絡み合った。
指と舌が、肌と声が、交わっては溶け合う。

まるで、罪の味が蜜のように甘くなる瞬間。
心のどこかで「これはいけない」と思っている。
でも、それを知りながら堕ちていく背徳こそが、私を深く濡らしていく。

由美子さんは、ベッドの脇から小さな小箱を取り出した。
そこには、見たことのない美しい玩具が並んでいた。
まるで宝石のような艶を持ち、それでいてどれも淫靡な形をしている。

「今日は…これを、ふたりで、してみようか」

私は、ただ頷いた。
もう、どこにも逃げ場なんてなかった。

**

快楽が深くなるたびに、理性は少しずつ溶けていった。
身体の奥で蠢く熱が、波のように押し寄せ、引いてはまた満ちていく。
由美子さんの指が、私の奥の奥まで届くたびに、言葉にならない吐息がこぼれた。

ふたりで見つめ合いながら、濡れた唇を重ね、名前のない悦びの渦へと沈んでいく。

その夜、私は何度も自分を失い、そしてまた取り戻した。

**

次第に、私は「夜のわたし」と「昼のわたし」を使い分けるようになった。
職場では誰にも気づかれないように微笑み、けれど夜になると、由美子さんの部屋へ誘われるままに通った。

私はもう、ただの“私”ではいられなかった。

**

第3部:選択の夜――背徳の果て、愛と再生のあいだで

雨が降る夜だった。
梅雨が戻ってきたような蒸し暑さに、胸の奥がざわついていた。

由美子さんからのメッセージには、いつもの柔らかい言葉が並んでいたけれど、どこかに違和感があった。
「今日は話したいことがあるの」
そう書かれていた。

私は、傘を持たずに彼女のマンションへ向かった。
びしょ濡れの髪が首筋に張りついて、それだけで気持ちが落ち着かなかった。

**

ドアを開けた由美子さんは、バスローブ姿だった。
けれど、いつものように笑わなかった。
部屋にはワインの香りと、少し冷たい空気が流れていた。

「ねえ……そろそろ、やめたほうがいいと思ってるの」

その言葉に、私は立ち尽くした。
足元がふらついたような感覚――いや、心のどこかでは、ずっと気づいていたのかもしれない。

**

「私はね、あなたを壊したくないの」

由美子さんの指が、そっと私の濡れた頬を拭った。
あんなにも熱く抱き合ったのに、いま彼女は、どこか遠い人のようだった。

「あなたは若い。まだこれから、たくさん恋をする。男の人とも、女の人とも。私は……ただ少し、寂しかったのよ」

そう言った彼女の瞳に、ふと影が差す。

私は、何も言えなかった。
本当は、もっと一緒にいたいと思っていた。
もっと深く、もっと堕ちてもいいとさえ思っていた。

でも――そのとき、彼女が見せた笑顔が、すべてだった。

**

「ねぇ、最後に、抱いてもいい?」

その問いかけは、告白ではなく、別れの予告だった。
私は静かに頷いた。
もう、言葉なんて必要なかった。

**

その夜の由美子さんは、まるで何かを刻むように、私を愛してくれた。
指先も、舌も、吐息さえも、丁寧で、優しくて、どこか祈るようだった。

肌を這うたびに、体温がすれ違い、唇を重ねるたびに、涙がこぼれた。
私は泣きながら、何度も身体を預けた。
そのたびに、由美子さんは「大丈夫」「綺麗よ」と囁いてくれた。

**

彼女の胸のなかで、私はすべてをさらけ出した。
身体の奥が痙攣するたびに、快楽と哀しみが同時に襲ってきて――
最高潮のその先には、静かな虚無と、言いようのない清らかさが待っていた。

「ありがとう。愛してたわよ」

彼女の最後のキスは、唇ではなく、まぶたに落とされた。
それが、永遠のように感じられた。

**

翌朝、目覚めると、ベッドの隣に彼女の姿はなかった。
けれど、枕元には、あの薄紫のランジェリーと、白い小さな手紙が置かれていた。

「あなたがいつか、誰かを愛するとき、
どうかそのままのあなたでいてね。
鏡の中のあなたを、愛せるように。」

私は、涙をぬぐいながらそれを胸に抱いた。

**

今でも、ふとランジェリーショップの前を通ると、あの夜を思い出す。
心の奥に熱が灯るような、切なくも甘い記憶。
それは、私のなかでずっと消えない灯火。

たったひとつの背徳。
だけど、その夜が教えてくれたのは――
**「愛されることを恐れないで」**という、赦しだった。

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